意見書対応の重要性◆ 第8弾

-商標の中途受任引き受けます!

難しそうな案件でも、是非登録しておきたいという思い入れのある商標は、登録の可能性が少しでもありそうなら、きちんと反論しましょう。登録になることが結構あります。

特許庁から拒絶理由通知をもらうと、ああダメなんだと直ぐにあきらめていませんか。

おかしいなと思ったら、積極的に意見書を提出して反論すべきです。審査官を説得すれば登録してくれます。

ここに挙げたものは、私が実務において、特許庁審査官等から受けた拒絶理由通知等に対し、具体的に反論した「意見書、審判請求書等」の具体例です。何の訂正もない、生のものです。

 指定商品又は指定役務の限定補正により登録になったケースというのは勿論沢山ありますが、ここに挙げたものは、補正をすることなく、意見書や審判での主張で審査官等の考えを覆したケースです。今回は、ケース71~75の5件を紹介します。

             2018-02-19 S.Ogawa

   -------------------------------

  ケースNO.          目     次                  適用条文

   ケース71:本願商標「Quick Security Server」(審判)3①3,4①16

   ケース72:本願商標「UCM」×引用商標「UCL」……4①11

   ケース73:本願商標「カフェしましょ。」……………3①6

   ケース74:本願商標「TOARCOTORAJA/トアルコ トラジャ」4①16

   ケース75:本願商標「夢馬/yumeuma………………………4①6

 ---------------------------------

ケース71 本願商標:「Quick Security Server」 

1.出願番号  商願平11-88167(不服2000-16544)

2.商  標  「Quick Security Server

3.商品区分  第9類:電子応用機械器具ほか

4.適用条文    商標法第3条1項3号、第4条第1項第16号

5.拒絶理由 「単に、商品の品質、機能を表示したもの」

6.不服審判における反論(請求の理由)

  【手続の経緯】

 出     願       平成11年 9月29日

 拒絶理由の通知       平成12年 7月25日

     同 発送日       平成12年 7月28日

  意  見  書       平成12年 8月17日

  拒 絶 査 定       平成12年 9月27日

   同 謄本送達       平成12年10月 6日

  【拒絶査定の要点】

  原査定は、「平成12年7月25日付けで通知した理由によって、商標法第15条の規定に基づき拒絶する」というものであり、その具体的理由は、拒絶理由通知書に示されたとおり、

『 本願商標は、「迅速な、素早い」等の語義を有する「Quick」、「安全、保証」等の意味を有する「Security」及び「電子応用機械装置」をいう際に使われる「Server」の語を連結して「Quick Security Server」と一連に書してなるところ、これよりは「迅速な応答可能かつ安全機能を備えたコンピューター」なる意味合いを想起するものであるが、本願指定商品中の「電子応用機械器具」等との関係においては、前記の如く商品が流通し販売されていることは一般に周知の事であるから、前記本願商標を指定商品中、例えば「電子応用機械器具」に使用するときは、単にその商品の品質・機能を表示したものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。』というものである。

 そして、拒絶査定書においては、以下のように付言している。

『 本願指定商品を取り扱う業界においては、とりわけ安全性などを重視する商品を「Security erver」と称しインターネットなどを使って普通に使用している実情があることが認められるものであるところ、本願商標は迅速さの意味を有する「Quick」の文字に連結されたに過ぎないものであるから、さきの認定を覆すことはできない』。

  【本願商標が登録されるべき理由】

 しかしながら、本出願人は、本願商標の「Quick Security Server」は全体として一種の造語商標を形成するものであり、これを本願の指定商品に付して使用しても、単に商品の品質・機能を表示するものではないと考えるので、前記認定には承服できず、ここに審判を請求し、再度の御審理をお願いする次第である。

(a)本願商標の構成

 本願商標は、願書の商標見本から明らかなように、欧文字で「Quick Security Server」と一連に横書きした態様からなり、かつ指定商品を第9類の「写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,自動販売機」とするものである。

(b)本願商標が登録されるべき理由

(b-1) しかるに本願商標の「Quick Security Server」は、「迅速な応答可能かつ安全機能を備えたコンピューター」を間接的に表示する文字であることを否定するものではないが、本願商標は、あくまでも「Quick」と「Security」と「Server」の単語を横一列に並べて作った造語商標であり、「Quick Security Server」が品質・機能表示として普通に用いられている事実はない以上、本願商標が、商標法第3条第1項第3号に該当するとした審査官の認定に納得することはできない。

  この点に関し、審査官は、『安全性などを重視する商品を「Security erver」と称しインターネットなどを使って普通に使用している実情がある』と言うようなことを述べているが(拒絶査定書)、情報処理の辞書類やインターネットの検索エンジン等で調べてみても、そのような事実は見あたらない。

 過去の商標審査例などを見ると、この指定商品分野において、本願商標を構成する「QUICK」や「SECURITY」や「SERVER」個々の単語は、それぞれ品質等を表わす言葉と理解され、自他商品の識別力はないと扱われているようである(例えば、商願平1-80704QUICK」、商願平4-1439SECURITY」など)。しかしながら、そのことが、全体としての識別性を否定する根拠にはなり得ない。本願商標の「Quick Security Server」は、一つ一つの単語を採ってみれば品質表示的な意味合いを持つことは認めるにしても、本願商標はこれら3つの単語が一体となって初めて一つの商標を構成するものであり、全体を一連一体にとらえてみれば十分に自他商品識別力を生じるものである。つまり、本願商標は、それぞれの単語を分断して把握すべき性格のものではない。わざわざ分断して把握しなければならない理由はない。むしろ、この商品分野においては、欧文字の比較的長い称呼を有する商標が多数存在していて、取引者・需用者は長い商標の識別には慣れている。しかも、本願商標の「Quick Security Server」は、一つ一つを分断して把握し称呼したのでは識別力を有しないことから、慣れ親しんだ取引者・需用者は一つ一つを取り出して称呼したり、一つを省略して称呼するようなことはするはずもない(*そのようなやり方をしたのでは識別できにくくなってしまう。比較的長い称呼に慣れたこの商品分野の賢明な取引者・需用者であれば、あえて識別しにくいような省略の仕方をして、本願商標を称呼するようなことはないはずである)。

  したがって、本願商標を取り扱う取引者・需用者は、あくまでも本願商標を一体のものとしてとらえ、全体を一連に「クイックセキュリティサーバ」とのみ称呼して、取引に当たるものと思料する。Quick Security Server」を構成する単語は、個々的に見たら品質表示的なものかもしれないが、本願商標は、これら品質表示的な単語を結びつけることによって全体として自他商品識別力を有する商標としたものであり、その意味で、十分に商標としての機能を発揮するものと思料する。なお、判決例を見てみると、例えば、昭和34年7月14日/東京高等裁判所/判決/昭和32年(行ナ)第34号:商標「Mode Robe」などは、普通名称の組合せと識別力の点につき、“流行をあらわすModeと衣服をあらわすRobeの語とは、それぞれ「流行している」「被服」であることを示すもので、商品衣服一般については自他商品識別の機能を有していないかも知れないが、Mode Robeと2語組み合せて使用されている事実はなく、また組み合わせて使用することは稀であろうから、この文字を商標として用いるときは、自他商品識別の機能を有する。”というような判断を下している(行政事件裁判例集10巻7号1361頁)。これは、自他商品識別機能を有しない単語でも、それらの単語を組み合わせることによって自他商品識別機能を有するとされた例である。本願商標も同様であろう。

(b-2)

  ところで、過去の御庁商標審査例をみると、本願と同一の指定商品分野において、品質表示的な言葉と「SERVER」の文字が結びついた商標は、以下のように数多く登録されている。

 例えば、

  1)登録第2529830号「COMMUNICATIONSERVER\コミュニケーションサーバー」(第1号証)、

 2)登録第3056166号「MEMORY SERVER」(第2号証)、

 3)登録第3297799号「SOLUTIONSERVER」(第3号証)、

 4)登録第4045860号「オフィスメディアサーバ\OFFICEMEDIASERVER(第4号証)、

  5)登録第4277731号「POWERSERVER」(第5号証)、

 6)登録第4297299号「Super Technical Server」(第6号証)、

  7)登録第4305707号「FAMILYSERVER」(第7号証)、

などである。これらの商標の構成単語を一つ一つみると、1)は「伝達、通信、交信」等の意味の「COMMUNICATION」と「電子応用機械装置」を言う際に使われる「SERVER」とが結合したものであり、2)は「記憶、メモリー」等を意味する「MEMORY」と「SERVER」が結合したものである。また、3)は最近よく使われる「問題解決」を意味する「SOLUTION」と「SERVER」が結合したものであり、4)は、「事務所、会社、オフィス」等使用場所を表す「OFFICE」と、「伝達・通信媒体」を表す「MEDIA」及び「SERVER」が結びついたものである。また、5)は「パワーのあること」を意味する「POWER」と「SERVER」を結合したものであり、6)は優れた意味の「Super」と技術的なことを意味する「Technical」と「Server」の結合であって、「優れた技術力を有するサーバー」ほどの意味合いを想起させ、また、7)は、「ファミリ向けのサーバー」の如き意味合いを想起させるものである。

 したがって、これらの商標から想起される意味合いを考えれば、上記商標は全て、「電子応用機械器具」のような商品分野においては、審査官のような見方をした場合には、品質・機能表示であるとして拒絶されてもおかしくない商標である。ところがその様な商標でも、上記の如くすべて登録されているのである。これは、商標を把握するに当たって、一つ一つの言葉を分断して把握するようなことはせず、あくまでも全体として一つの商標であると把握したからに他ならない。つまり、これらは個々的にみたら品質表示的な言葉であるが、それらを組み合わせることによって自他商品識別力が生じた造語商標の例であると思料する。そして、本願商標もこれらの登録商標と同一の性格を有する商標であり、十分識別力を有するものと思料する。

  審査官は、先の拒絶査定書で、『安全性などを重視する商品を「Security erver」と称しインターネットなどを使って普通に使用している実情がある』と言う。しかし、前述したように、そのような実情など見あたらない。まして、「Quick Security Server」が普通に品質・機能表示として用いられている事実などない。それ故、取引者・需用者が、例えば、「電子応用機械器具」に商標的使用態様で「Quick Security Server」と書してある文字を見て、これを品質・機能表示であると認識するとは到底思われない。むしろ、一般的には、「Quick Security Server」という商標名の製品であると理解するのが自然である。そうだとすれば、本願商標「Quick Security Server」は充分に識別標識として機能し得る商標である。

(b-3) そして、このことは更に、「QUICK」の付く商標をみても明らかである。即ち、第9類の「電子応用機械器具」等の商品分野においては、「QUICK」の単語と、他の品質・機能表示的な意味合いを想起させる単語とが結びついて一体となった商標として、以下のような商標が存在する。

  即ち、

 8)登録第2116122号「QUICKMAIL」(第8号証)

 9)登録第2704085号「QuickLettering」(第9号証)

  10)登録第2704213号「QuickSave/クイックセーブ」(第10号証)

  11)登録第3116035号「QUICK SURF」(第11号証)

  12)登録第3138854号「QuickLink」(第12号証)

 13)登録第3217395号「QuickReverse」(第13号証)

  14)登録第3261270号「QUICKVISION」(第14号証)

  15)登録第4074713号「QUICKWORK」(第15号証)

  16)登録第4115051号「Quick System」(第16号証)

 17)登録第4201916号「QUICKMENU」 …(第17号証)

 18)登録第4218048号「QUICKMAP」(第18号証)

  19)登録第4254701号「QUICKSTOP/クイックストップ」(第19号証)

  20)登録第4388234号「Quick View」(第20号証)  etc.

などが登録商標として存在している。

 そして、8)からは、その商品(メールソフトなど)が「迅速なメール機能を有すること」、9)からは、その商品が「迅速なレタリング機能を有すること」、10)からは、その商品が「迅速な保全機能・節約機能を有するものであること」等を表している。また、11)からは、その商品が「迅速な(ネット)サーフィン機能を有するものであること」、12)からは、その商品が「迅速なリンク機能を有するものであること」、13)からは、その商品が「迅速な巻き戻し機能を有するものであること」、14)からは、その商品が「迅速に映像を映し出す機能を持っていること」、15)からは、その商品が「迅速な作業能力を有するものであること」等を表している。更に、16)からは、その商品が「迅速な機械装置(システム)であること」、17)からは、「コンピュータのメニューが迅速に表示されるものであること(迅速なメニュー表示機能を有するものであること)」、18)からは、その商品が「迅速な地図表示機能を有すること」、19)からは、その商品が「迅速な停止機能を有するものであること」、20)からは、その商品が「迅速な映し出し機能を有するものであること」、といったような意味合いを想起させるものである。

  しかるに、そのような意味合いを想起させるからといっても、これらの商標が品質・機能表示であると扱われている事実はない。自他商品識別機能を有する商標として、登録されているのである。

 このように、その言葉の意味合いだけを考えてみた場合には品質・機能表示的な商標であっても、品質・機能表示として普通に用いられている事実がない場合には、全体として自他商品識別力を有する商標であるとして、登録されているのである。

 したがって、本願商標の「Quick Security Server」も、個々の単語の意味合いからすれば品質・機能表示的なものかもしれないが、そして、全体から受ける意味合いも「迅速な応答可能かつ安全機能を備えたコンピューター」というようなイメージかも知れないが、それはあくまでも間接的な印象やイメージであって、直接的に「Quick Security Server」が品質・機能表示用語として使われているものではない。それ故に、例えば「電子応用機械器具」に商標的使用態様で本願商標を使用した場合でも、その取引者・需用者は、「Quick Security Server」という商標名の製品であると理解するのが自然であろう。そうだとすれば、本願商標「Quick Security Server」は充分に識別標識としての機能を備えた商標であると言い得る。

(b-4) 繰り返し述べるが、本出願人は、「Quick Security Server」が「迅速な応答可能かつ安全機能を備えたコンピューター」を暗示させあるいは間接的に想起させる文字であることを否定するものではない。また、個々の単語「Quick」、「Security」、「Server」が品質・機能を表示するような単語であることを否定するものでもない。しかし、そのことが直ちに、本願商標全体が、品質・機能表示にすぎない、即ち、品質・機能を普通に用いられる方法で表示する標章にすぎない、と言うことにはならない。

 商標法第3条第1項第3号の商標審査基準には、“指定商品の「品質」、「効能」、「用途」等を間接的に表示する商標は、本号の規定に該当しないものとする”と明確にうたっている。この審査基準に照らし合わせてみても、今般の審査官殿の認定に承服することはできない。

  【むすび】

 以上の次第でありますので、本願商標は商品の品質や機能を普通に用いられる方法で表示する商標ではなく、自他商品識別力を有し、充分登録適格性を備えたものと思料します。

 よって、原査定を取り消す、本願の商標は登録をすべきものであるとの審決を求める次第であります。

【証拠方法】

(1)第1号証登録第2529830号公報「COMMUNICATIONSERVER\コミュニケーションサーバー」、(2)第2号証登録第3056166号公報「MEMORY SERVER」、(3)第3号証登録第3297799号公報「SOLUTIONSERVER」、(4)第4号証登録第4045860号公報「オフィスメヂアサーバ\OFFICEMEDIASERER」、(5)第5号証登録第4277731号公報「POWERSERVER」、(6)第6号証登録第4297299号公報「Super Technical Server」、(7)第7号証登録第4305707号公報「FAMILYSERVER」、(8)第8号証登録第2116122号公報「QUICKMAIL」、(9)第9号証登録第2704085号公報「QuickLettering」、(10)第10号証登録第2704213号公報「QuickSave\クイックセーブ」、(11)第11号証登録第3116035号公報「QUICK SURF」、(12)第12号証登録第3138854号公報「QuickLink」、(13)第13号証登録第3217395号公報「QuickReverse」、(14)第14号証登録第3261270号公報「QUICKVISION」、(15)第15号証登録第4074713号公報「QUICKWORK」、(16)第16号証登録第4115051号公報「Quick System」、(17)第17号証登録第4201916号公報「QUICKMENU」、(18)第18号証登録第4218048号公報「QUICKMAP」、(19)第19号証登録第4254701号公報「QUICKSTOP\クイックストップ」、(20)第20号証登録第4388234号公報「Quick View」

【その他】

 文書中に示した証拠方法(第1号証乃至第20号証)は、御庁備え付けのもの(データベース)があるので、それを援用し、その提出は省略する。

  委任状は、包括委任状番号9812144を援用する。

———————————————————————

(参考)ケース71の「審決」

不服2000-16544

   平成11年商標登録願第 88167号拒絶査定不服審判事件について、

  次のとおり審決する。

 結 論

   原査定を取り消す。

   本願商標は、登録すべきものとする。

 理 由

  1 本願商標

   本願商標は、「Quick Security Server」の欧文字を横書きしてなり、第9類「写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,

電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,録画済みビデオディス

ク及びビデオテープ,自動販売機」を指定商品として、平成11年9月29

日に登録出願されたものである。

  2 原査定の拒絶理由の要点

   原査定は、「本願商標は、『迅速な、早い』等の語義を有する『Quick』、『安全、保証』等の意味を有する『Security』及び『電子応

用機械装置』をいう際に使われる『Server』の語を連結して『Quic

k Security Server』と一連に書してなるところ、これより

は、『迅速な応答が可能かつ安全機能を備えたコンピュータ』なる意味合いを

想起させるものであるから、これを指定商品中『電子応用機械器具』に使用するときは、単にその商品の品質、機能を表示したものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断して、本願を拒絶したものである。

  3 当審の判断

  本願商標は、上記のとおり「Quick Security Server」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成中「Quick」の文字は、「迅速な、すばやい」等の意味を有する英語として親しまれている語ということができる。

  また、「Security Server」の文字は、その構成中「Security」の文字がその指定商品との関係においては、「コンピュータシステムの防災、安全保護」などの意を、また、「Server」の文字が「ネットワーク上で(ファイル、プリント、アプリケーション等の)サービスを提供するコンピュータ又は同コンピュータソフトウエア」等を意味する語であるから、「Security Server」の文字からは、「システムの防災、安全保護等を提供するコンピュータ又は同コンピュータソフトウエア」の如き意味合いを看取させるものということができる。

  しかしながら、本願商標は、前記のとおり、「Quick Security Server」の文字からなるものであって、原査定説示のように、該文字が、本願指定商品の品質、機能等を具体的に表したものということもできないとみるのが相当である。

  また、当審において調査するも、該文字が、本願指定商品の品質、機能等  を表す語として、一般に使用されている事実も見い出せない。

  してみれば、本願商標をその指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと判断するのが相当であり、また、商品の品質について誤認を生じるおそれもないものといわなければならない。

  したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項

  第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は妥当でなく、取り消しを免れない。

  その他、本願について拒絶の理由を発見しない。

  よって、結論のとおり審決する

        平成17年10月20日

                 審判長  特許庁審判官 山田  清治

                      特許庁審判官 小林  

                      特許庁審判官 寺光  幸子

----------------------------

ケース72 本願商標「UCM」×引用商標「UCL」

1.出願番号  商願2005-40192

2.商  標   「UCM」

3.商品区分  第42類  電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守ほか

4.適用条文    商標法第4条第1項第11号

5.拒絶理由  登録第4411761号商標「UCL」と類似する。

6.意見書における反論

(1) 拒絶理由通知書において、審査官殿は、本願商標は登録第4411761号(商願平11-043469号)の商標(以下、「引用商標」という)と同一又は類似であって、その商標に係る指定役務と同一又は類似の役務に使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録できないと認定された。

 しかしながら、本出願人は、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても紛れることのない非類似の商標であると考えますので、前記認定には承服できず、以下に意見を申し述べます。

(2) 本願商標は、願書の商標見本からも明らかなように、「UCM」の欧文字を横書きしてなるものでありますが、引用商標は「UCL」の欧文字(標準文字)からなるものであります。

 したがって、本願商標と引用商標とは、欧文字三文字からなる商標において、その第3文字目に「M」と「L」の違いがあり、外観上十分に識別でき、類似しないこと明らかであります。

  また、本願商標「UCM」と引用商標「UCL」とは、共に格別の意味を持たない造語商標であり、したがって、両者は観念上比較すべくもなく、観念上も同一又は類似しないこと明かであります。

(3) そこで、次に称呼の点につき検討します。

 まず、本願商標は、上記態様より、「ユウシイエム」ないし「ユーシーエム」の称呼を生じるものでありますが、引用商標は、その態様より「ユウシイエル」ないし「ユーシーエル」の称呼を生じるものであります。然るに、両者は、語尾の第3文字目に「M」(エム)と「L」(エル)の違いしかなく、そのために審査官殿は、両商標は称呼上紛らわしいと判断したのだと思います。

 しかしながら、本出願人は、以下の理由により、本願商標と引用商標とは、称呼上紛れることのない非類似の商標であると思料します。

  すなわち、

  まず、第一に、本願商標「UCM」と引用商標「UCL」とは、上述の如く一文字の相違でありますが、全体が僅か3文字という短い構成からなる商標同士における「M」と「L」一文字の違い(全体の3分の1を占める)であり、したがって、この「M」(エム)と「L」(エル)の違いが全体の称呼に及ぼす影響は極めて大きいと思われること。

  第二に、両者は、全体が欧文字3文字から成り且つ一文字ずつ発声する以外に読み方がないため、これら全体を称呼した場合には、「ユウ・シイ・エム」や「ユー・シー・エム」とか、「ユウ・シイ・エル」や「ユー・シー・エル」の如く、一文字一文字音節を区切って明瞭に称呼されるのが自然だと思います。それ故、この「M」と「L」の文字も最後尾にあるとはいえ明瞭に称呼され、この「M」と「L」の称呼上の差異により、両者は十分に聴別できると思われること。

 第三に、この「M」(エム)と「L」(エル)は、第2音目の弱音(イ)ないし長音(ー)を伴う「C」(シイ)(シー)に続いて発声されるため、比較的強いアクセントをもって明瞭に称呼される文字であり、このアクセントによって称呼上の違いがより強調されると思われること。

 第四に、本願商標と引用商標の対象役務は、第42類の「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」でありますが、この役務の業界、即ち、コンピュータプログラムの設計等コンピュータ業界やIT業界においては、欧文字で構成される商標が数多く存在し、そのネーミングも欧文字の頭文字を採って並べたような造語や略称が多く、それ故に、その需要者・取引者層も欧文字ネーミングには極く親しんでいて、注意深い観察力を持って商取引にあたると思われること。

 以上のような理由により、上記「M」(エム)と「L」(エル)の差異は、両商標を称呼上識別するに十分な差異であり、両商標は称呼上明確に識別できるものと思料します。

(4) そして、このことは、第42類のコンピュータプログラムの設計等の役務分野において、以下のような商標が互いに登録され、かつ存続している事実からも伺い知ることが出来ます。

  例えば、

(A)

  ・登録第3159681号「PCL」(H8.5.31登録、ソニーピーシーエル株式会社)(第1号証の1)

 ・登録第4613129号「PCM」(H14.10.18登録、アートグレミオ株式会社)(第1号証の2)。

(B)

 ・登録第3128936号「YCL」(H8.3.29登録、山梨中銀リース株式会社)(第2号証の1)と、

 ・登録第4540132号「YCM」(H14.2.1登録、株式会社マタハリー)(第2号証の2)。

(C)

 ・登録第4520754号「JCM」(H13.11.9登録、株式会社ジェイ・シー・エム)(第3号証の1)

 ・登録第4563887号「JCL」(H14.4.26登録、日本医学臨床検査研究所)(第3号証の2)。

(D)

 ・登録第3119891号「ICM」(H8.1.31登録、株式会社アイシーエム)(第4号証の1)

 ・登録第3187324号「ICL」(H8.8.30登録、インターナショナルコンピューターズリミテッド:イギリス国法人)(第4号証の2)。

 これらは、互いに欧文字三文字からなる商標で、第2文字目に「C」を有し、且つその第3文字目に「L」と「M」の違いがあるだけの商標ですが、互いに類似しないものとして併存登録されております。

 然るに、本願商標「UCM」と引用商標「UCL」とて、第2文字目に「」を有し、且つその第3文字目に「」と「」の違いがあるだけの商標である点で、これら(A)~(D)で対比した商標同士と同様の関係であり、これらが併存できて、本願商標と引用商標とが併存出来ないとされる謂われは全くありません。

(5) このように、本願商標「UCM」と引用商標「UCL」とは、一文字相違とは言っても、僅か三文字という短い文字構成の中における一文字の相違であり、そして、この「M」と「L」の部分は2音目の弱音(イ)ないし長音(ー)の後に位置して比較的強く発声される文字でありますので、両者は、この「M」と「L」の違いにより、別異の印象を与え、明瞭に識別できるものと思います。

ケース73 本願商標:「カフェしましょ。」

1.出願番号  商願2005-51696

2.商  標   「カフェしましょ。」

3.商品区分  第30類

4.適用条文    商標法第3条第1項第6号

5.拒絶理由  何人かの業務に係る商品であることを認識することができない。

6.意見書における反論

(1) 拒絶理由通知書において、審査官殿は、“本願商標は、「カフェしましょ。」の文字よりなるところ、近年、お茶、コーヒー等を楽しむための誘いを表現する意味合いで「お茶します」「カフェしませんか」「お茶する」「カフェる」「カフェしましょ」の如く一般使用されていることよりすると、その一つの文字(語)をその指定商品に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標と認めます。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第3条第1項第6号に該当します。”と認定しております。

 しかしながら、本出願人は、本願商標の「カフェしましょ。」は充分に自他商品識別標識として機能する商標であると思料しますので、上記認定には承服できず、以下に意見を申し述べます。

(2) 本願商標の「カフェしましょ。」は、審査官殿のご指摘によれば、お茶、コーヒー等を楽しむための誘いを表現する意味合いで一般に使用されている言葉であるから、これを茶やコーヒーに使用しても、識別標識として機能しないということであります。

 しかし、お茶に誘う時の言葉であるから、これを指定商品に使用しても識別機能を発揮しないというのは如何にも短絡的に過ぎると考えます。同じ言葉であっても、お茶の誘いに使うときと、指定商品に使うときとでは意味合いが全く違います。

 成る程、例えば、会議途中に、「お茶しましょ。」とか、「カフェしましょ。」と言うと、それはまさしく単に「お茶の時間にしましょう。」とか、「ちょっと休憩でもしましょう。」という意味合いの言葉であると理解できます。その場合には、その言葉に商品の識別機能などないでしょう。しかし、それは正しく商品というものを想定していないからであって(ここでは「お茶の時間にしましょう」ということだけを想定しているだけ)、指定商品について「カフェしましょ。」と使うときには、また別の話であります。その場合には、自他商品識別標識として機能するはずであります。

  例えば、駅売店「キヨスク」などで、「カフェしましょ。」とネーミングした缶コーヒーを、他の商品と共にショーケースに並べて売るなどの場面は商標の典型的な使用場面でありますが、この場合、顧客が“「カフェしましょ。」下さい。”と言えば、あるいは単に「カフェしましょ。」とだけ言えば、販売員は所望の缶コーヒーを差し出すはずです。また、例えば、売店で、「おーい、お茶」と言えば、伊藤園のお茶が差し出されるでしょう。そうだとすれば、本願商標「カフェしましょ。」や「おーい、お茶」は、自他商品識別標識として機能しているということになります。

(3) ところで、過去の商標登録例を見ても、例えば、以下のような商標が登録になっております。

 登録2150845  お茶にしましょ     30 菓子,パン

 登録2447658  お茶しましょ       30 緑茶

 登録3153817  プリンにしましょ   30 プリン

 登録4254895  お茶にしましょう   30類 コーヒー等/32類 清涼飲料等

 登録4267099  お茶と花しましょ   30

 登録4540807  お抹茶しましょ     30 抹茶

 登録4719422  おべんとしましょ   29類 乳製品,豆腐等/30類 コーヒー等

 然るに、このような商標が登録できて、本願商標「カフェしましょ。」が登録できないとされる謂われは全くありません。特に、Bの登録2447658「お茶しましょ」や、Dの登録4254895「お茶にしましょう」や、Fの登録4540807「お抹茶しましょ」などは、指定商品も茶やコーヒー等の飲物ですし、その商標の作り方も本願商標「カフェしましょ。」と変わるところはありません。したがって、本願商標「カフェしましょ。」も登録されて然るべきであります。

ケース74 本願商標:「TOARCO TORAJA/トアルコトラジャ」

1.出願番号  商願2005-61229

2.商  標   「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」

3.商品区分  第43類 飲食物の提供

4.適用条文    商標法第4条第1項第16号

5.拒絶理由  何人かの業務に係る商品であることを認識することができない。

6.意見書における反論

(1) 拒絶理由通知書において、本願商標は、“「TORAJA」及び「トラジャ」の文字を有してなるものですが、当該文字は、「インドネシア共和国、スラウェシ島の山岳地帯に存在する地域またはその山地に住む民族」を意味する語であり、当該地域においては、コーヒー豆の生産が有名であることからすれば、これを本願指定役務中「トラジャ産コーヒーを主とする飲食物の提供」以外の役務について使用するときは役務の質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認めます。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第16号に該当します。”と認定されております。

 しかしながら、本願商標は、「TORAJA/トラジャ」の文字を含むものであっても、該文字はコーヒー豆の産地として知名度はあるものの、本願の指定役務である「飲食物の提供」との関係では何ら知名度はなく、従って、「レストランや喫茶店の看板、料理メニュー、店舗宣伝ちらし」等に本願商標を用いたとしても、決して「トラジャ産コーヒーを主とする飲食物の提供サービス」であるとか、「インドネシア共和国スラウェシ島トラジャ地方で生産されたコーヒー専門店」であるなどと取引者・需要者に認識されるものではなく、他の飲食物を提供しても質の誤認を生じさせることはないと考えます。

 それ故、指定役務を「トラジャ産コーヒーを主とする飲食物の提供」に補正すれば本願は登録できるであろうことは理解できるものの、前記審査殿の認定には承服できませんので、以下、指定役務を補正することなく、意見を申し述べます。

(2) 本願商標は、願書の商標見本からも明らかなように、英文字の「TOARCO TORAJA」と片仮名文字の「トアルコトラジャ」を上下二段に書してなるもので、第43類「飲食物の提供」を指定役務とするものであります。

 然るに、本願商標中の「TORAJA/トラジャ」の部分は、もともとは、当社が株式会社東食と共に「インドネシア共和国スラウェシ島トラジャ地方」に自社農園を手がけたこと、そして、そこで生産したコーヒーを日本で販売したことに端を発するものであります(約30年前)。即ち、当社は当時、“最高のコーヒーを追求する”旺盛な意気込みのもと、自らコーヒーの栽培を手がけることに辿りつき、インドネシアのスラウェシ島にトアルコトラジャ直営農場を開拓し、その経営に着手したものであります。

 そして、今でこそ「トラジャ地方」がコーヒー豆の産地として認知されてきているようでありますが、当社が手がけたころの約30年前は「トラジャ地方のコーヒー豆」など日本で知られる由もなく、そのため、当社は株式会社東食と共に「TORAJA/トラジャ」の商標について、第29類「コーヒー、紅茶、その他本類に属する商品」を指定商品として商標登録を行い(商標登録第1311224号、昭和52年11月14日登録、昭和34年法)、その普及に努めてきたわけであります。また、当社等は、平成の時代になって、本願商標と称呼同一の商標「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」の商標についても、同じく第29類「トラジャ産の茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」を指定して商標登録を行っております(商標登録第2588965号、平成5年10月29日登録、昭和34年法)。

 このように、「TORAJA/トラジャ」や「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」は、もともと「コーヒー」についての当社等の登録商標であり、当社等が日本国内で販売を開始したのがきっかけとなって、また、その後の当社等の努力によって、これだけの知名度を得たものでありますが、一方で、ここ何年かのうちに、インドネシア共和国「トラジャ地方産のコーヒー」が他社からも盛んに宣伝され且つ販売されるに至り、現在においては「TORAJA COFFEE」「トラジャコーヒー」といえば、インドネシアのトラジャ地方産出のコーヒー(豆)を思い浮かべるようになってきているようであります。

 しかし、そのような産地としての認知度は、あくまでも「コーヒー」や「コーヒー豆」について、「TORAJA COFFEE」や「トラジャコーヒー」、あるいは端的に「トラジャ産」というような表示をした場合のことであって、単に「TORAJA/トラジャ」とか「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」と表示した場合にまで、直ちにトラジャ産コーヒーと結びつくものではないと考えます。「TORAJA/トラジャ」や「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」は、まさに当社の登録商標の用い方であって、産地表示としての用い方ではありません。コーヒー等商品の包装に商標的使用態様で「TORAJA/トラジャ」や「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」と記載した場合には、自他商品識別標識として機能する当社と東食の登録商標を表すものであります。「トラジャ地方」がコーヒーの産地として知名度を上げてきているとは言え、「TORAJA/トラジャ」や「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」は「コーヒー」等についての当社等の登録商標である事実に変わりはありません。

  しかも、今般の本願商標「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」に係る指定対象は、これらコーヒー等の商品そのものについてではなく、「飲食物の提供」という役務(サービス)についてであります。「コーヒー」とか「コーヒー豆」などの商品であればまだしも、「レストラン」や「喫茶店」、「トラジャ料理」等の飲食物の提供サービスについて、「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」が有名なわけではありません。「トラジャ地方」が良質のコーヒー豆の産地として知名度を上げていることは認めるにしても、飲食物の提供という役務を表示する通常の態様であるレストランや喫茶店の「看板」に、「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」との店名の表示があるのを見て、「この店はトラジャ産コーヒーを主とする飲食物を提供店だ」とか、「トラジャ産コーヒー専門店だ」などと誰が思うでしょうか?素直に「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」という店舗名だと認識するのが普通だと思います。そうだとすれば、「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」は店舗の名前として、トラジャ産以外の飲食物を提供しても、これがトラジャ産のものであると質の誤認を生じさせるというようなことはないと思料します。

(3) この点に関し、審査官殿は、“本願商標を構成する「TORAJA」及び「トラジャ」の文字は、「インドネシア共和国、スラウェシ島の山岳地帯に存在する地域またはその山地に住む民族」を意味する語であり、当該地域においては、コーヒー豆の生産が有名であることからすれば、これを本願指定役務中「トラジャ産コーヒーを主とする飲食物の提供」以外の役務について使用するときは役務の質について誤認を生じさせるおそれがある”としております。

 しかし、先にも少し触れたように、コーヒー豆の産地として有名だからといって、それが直ちに喫茶店やレストランについて有名であるとは限りません。ましてや、「コーヒーを主とする飲食物の提供」という役務について、直接結びつくものではありません。「コーヒー」という商品についての「TORAJA/トラジャ」の使い方は、転々流通するコーヒーという商品の包装に直接付し、或いはコーヒーという商品を直接宣伝するために用いるものだと思いますが、「飲食物の提供」についての「TORAJA/トラジャ」ないし「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」の使い方は、「店舗看板、料理メニュー、店舗宣伝ちらし」等への「店舗名」(店舗の固有名詞)の表示であります。そこには個別商品である「コーヒー」のイメージは出てきません。つまり、本願はあくまでも「飲食物の提供」についての商標であるが故に、本願商標の「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」を使う場面というのは、地域に根ざした店の看板とか、一定の場所にある店舗の宣伝ちらしとか、電話帳に載せた店名のようなものであり、店舗のイメージとともに認識されるべき性質のものだと思います。商品のように地域と関係なく転々流通するものではありませんので、コーヒー等の商品のように、トラジャで産出されたもの等を、すぐにイメージできるような性質のものではありません。

 そして、一般的にも、レストランや喫茶店等に出向いた顧客は、例えば、行き着いたレストランや喫茶店の看板に「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」と表示があった場合、これを見て、「トラジャ地方のコーヒーを専門に扱うレストランや喫茶店」だとか、「トラジャ民族が営むレストランや喫茶店」だとかと、認識するものでしょうか。認識することはまずないと思います。素直に、レストランや喫茶店の固有名詞である「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」という店名を意識するものと思います。そうだとすれば、この「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」は店舗名として用いても、質の誤認など生じさせることはないと思料します。

(4) 以上の次第でありますので、本願商標は決して「トラジャ地方のコーヒーを扱うレストランや喫茶店」などいう認識は持たれず、それ以外の飲食物を提供しても、また、トラジャ地方と全く関係のない飲食物のみを提供しても、質の誤認を生じさせるようなことはないと思います。

 よって、本願商標「TOARCO TORAJA/トアルコ トラジャ」は、本願指定役務中「トラジャ産コーヒーを主とする飲食物の提供」以外の役務について使用しても、役務の質について誤認を生じさせことはなく、商標法第4条第1項第16号には該当しないものと考えます。

ケース75 本願商標:「夢馬/yumeuma

1.出願番号  商願2005-79455

2.商  標   「夢馬/yumeuma

3.商品区分  第30類

4.適用条文    商標法第4条第1項第6号

5.拒絶理由  飯能商工会議所(埼玉県)が特産の西川材を使って制作し、ギネスブックで世界最大と認定された巨大木馬「夢馬」を表すものとして広く知られている標章と類似する標章を含む。

6.意見書における反論

【意見の内容】

(1) 拒絶理由通知書において、審査官殿は、“本願商標は、飯能商工会議所(埼玉県)が特産の西川材を使って制作し、ギネスブックで世界最大と認定された巨大木馬「夢馬」を表すものとして広く知られている標章と類似する標章を含むものと認められるので、商標法第4条第1項第6号に該当する。”と認定されました。

  しかしながら、巨大木馬「むーま(夢馬)」はそれほど広く知られているもの(著名なもの)とは思えず、また、本出願人は飯能市の事業とは全くかけ離れた役務に「夢馬/yumeuma」を用いるものでありますので、埼玉県飯能市の権威を傷つけることも、公益を害することもないと考えます。それ故、前記商標法第4条第1項第6号に該当するとの審査官殿の認定には承服できず、以下に意見を申し述べます。

 なお、本出願人は、本日付け提出の手続補正書において、本願の指定役務中、「教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」とあるのを、「競馬に関するビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」と改める補正を行いました。これにより、本出願人の指定役務は全て競馬に関するものであることを明確にし、飯能市などの公的機関が行う事業とは全く関係のないことを鮮明にしました。

(2) まず、審査官殿が拒絶の根拠として挙げられた商標法第4条第1項第6号は、「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標」については、商標登録を受けることができないとする規定でありますが、飯能市の「むーま(夢馬)」は果たしてそれほど広く知られている(著名な)ものなのでしょうか?

  成る程、飯能市は、平成17年4月1日付けで「森林文化都市宣言」を発表し、そのイメージキャラクターとして、揺れ動く木馬「むーま夢馬」を飯能駅南口に設置しました。そして、この設置した木馬は、平成17年4月28日に、世界最大の木馬としてギネス記録に認定されたようであります。

 しかし、世界最大の木馬と認定されギネスブックに載せられたことが、そのまま著名性に結びつくものではないと考えます。そのことが果たして日本国内において著名だといえるのでしょうか?はなはだ疑問であります。

 ギネスブック(ギネス・ワールド・レコーズ、ギネス世界記録、Guinness World Records)は、さまざまな分野の世界一を収集した本でありますが、収録されるのは、発行元であるギネス・ワールド・レコード社が定める「認定されたカテゴリー」の元で「認定されたルール」に従って作られた記録であります。ギネスブックの名称は2002年度版からギネス・ワールド・レコーズ(ギネス世界記録)に改称され、日本語版は1978年に初めて講談社が本格的な邦訳を刊行(1980年代半ばまで)、そのあとは長らく「きこ書房」が手がけてきましたが、2002年版を最後に取り扱いをやめたため、2004年版からは「ポプラ社」が発行しているようであります(但し、2003年版は発売されていません)。

 このギネスブックなどは普段我々が目にする機会はまずありませんし、たとえ目にしたとしてもそのようなものが載っているなど、ほとんど分かりません。また、ギネスブックに載っていても我々が知らないものはいくらでもあります。ギネス認定自体世間で騒がれているわけではなく、飯能市が「森林文化都市宣言」を行ったことも、そしてそのイメージキャラクターに「むーま夢馬」を採用し、それをイメージした木馬を飯能駅南口に設置したことも、世間の人は果たしてどれほど知っているのか。おそらく飯能市及びその近隣の地域において知られているのが、せいぜいではないかと思います。

 それ故に、日本国内において「著名」(商標法416号)であるなど、はなはだ疑問であります。審査官殿は何を根拠に著名だというのかよく分かりません。大々的に宣伝されれば兎も角、(a)飯能市が森林文化都市宣言をした事実、(b)キャラクターを木馬とした事実、(c)そのキャラクターの名前をムーマ(夢馬)とした事実、(d)飯能駅南口に設置したムーマの木馬が木馬としては世界一の大きさであったとの事実、そして、(e)そのことがギネスブックに載せられた事実、等々は認めるにしても、「むーま(夢馬)」が飯能市が宣言した森林文化都市のイメージキャラクターとして日本国内において著名であるとは、到底思えません。

(3) また、今回の場合、本願商標は、地方公共団体の営む「まち作り事業」のキャラクターのネーミングと漢字表記「夢馬」が一致してしまったということのようでありますが、呼び名は飯能市の巨大木馬が「ムーマ」であるに対し、本願商標はあくまでも「ユメウマ」であって、互いの称呼は全く異なります。

 しかも、「夢馬」の漢字から生じる自然の称呼は、常に「ユメウマ」であって、飯能市のような「ムーマ」ではないはずです。自然に「夢馬」をムーマと読むことはないでしょう。だとすれば、本願商標を見て称呼しても、常に「ユメウマ」の称呼が生ずるのであって、その称呼から、飯能市の木馬を思い浮かべることはまずありません。まして、本願商標には「yumeuma」の英文字表記も含まれておりますので尚更です。本願商標「夢馬/yumeuma」を使用しても、誰も飯能市の「ムーマ」を想起するとは思えません。

(4) また、商標法第4条第1項第6号の立法趣旨は、このような標章を一私人に独占させるのは、その団体や事業の権威を害することになり好ましくないとともに、これらの団体により行われる事業を含めて公益事業における著名標章の出所表示機能を保護しようとすることにあると思いますが、両者は呼び名も全く違いますし、とり行う役務においても、飯能市は「森林と人とのより豊かな関係を築きつつ、自然と都市機能とが調和するまちづくり事業」であるのに対し、本願は、「インターネットを利用した競馬に関する知識の教授や競馬の予想や競馬に関する情報の提供」等、競馬に関するものでありますので、互いに全く異質のものであり、出所の混同を来すこともないと考えます。

 それ故、例えば、本願商標「夢馬/yumeuma」を使用して、本出願人が自社の「インターネットのホームページを通じて競馬情報」を流したとしても、飯能市の権威や公益を害することはないでしょうし、飯能市の事業と出所の混同を来すこともないと思います。飯能市が「自然と都市機能とが調和したまちづくり事業」の一環として、例えば「競馬情報のインターネットサイト」を開設しているなどと、誰も思うはずはありません。それ故、本願商標「夢馬/yumeuma」が商標法第4条第1項第6号に該当することはないと考えます。

これらは、全てこの意見書により審査官の考えを変えさせ、あるいは審判請求により登録にもっていったケースです。

  審査官も考え違いをしている場合がありますし、取引の実情から全く懸け離れたような判断を下す場合もあります。

 従って、納得できなければこのように積極的に反論すべきです。審査官も正当な理由があると認めれば(「なるほどな」と思わせれば)、考えを改めるはずです。                                      

 なお、この中には審判のケース、即ち、審査官の認定は不当であったとして審判官がその判断を覆し、登録を認めたケースも多数含まれています。

                      2018-2-19 S.Ogawa

 

お気軽にお問い合わせください。03-3256-8439受付時間 9:00 - 18:00 [ 土日・祝日除く ]

お問い合わせはこちら お気軽にお問い合わせください。